先輩が顔を上げた。
私もまっすぐと先輩を見る。

今日一日で、ずいぶんと、先輩の目をまっすぐ見れるようになった。


「俺だけが特別なわけじゃないって、そう思えたから、それだけで随分楽になったんだよ。
あるでしょ、そういうこと?」

「…はい。確かに」

「ユッキーのお母さんもだし、俺の家族もそれなりに頑張ってるんだよな。
なんか、恥じてた自分こそが恥ずかしく思えてきて」


先輩は頬杖を突いてそう言うと、私に、照れくさそうに笑いかけた。


「だから、ユッキーにお礼が言いたかったわけ。今日は付き合ってくれてありがとう」

「いえ、私は何も…」






――困った。

思いのほかに、中川先輩が優しすぎて。
いい人すぎて。

これから先なにかに誘われても、断れる気がしない、
というか、断りたくない。


美奈子たちに知られたら、嫌な顔されるのはわかってるし、私自身そんなつもりはなかったのに。
予想を上回るこの気持ちの変化に、どうしたらいいのか自分でもわからない。






「ユッキーはさ」



――帰り際。

ブレザーを羽織って、伝票を持って会計に向かいながら、先輩にこう言われた。


「人一倍、気を使う子だよね」