先輩の漆黒の瞳を、思わずじっと見つめた。

口角をきゅっと上げて、先輩は優しい笑顔で言った。


「合コンで会って、ユッキーの家庭の話を聞いたときにさ」

「…はい」

「横の渡辺とかはさ、勝手に同情してたけどさ、俺は本当になんとも思わなかったの。

いや、なんとも思わなかったって言ったら嘘になるかな。なんていうんだろう。安心したんだよね」


安心?
その言葉に小さく首を傾げると、先輩は「というのはさ」と笑って続けた。


「俺、親父がサラリーマンやってたんだけど、数か月前に会社が倒産して。
新しい仕事が見つかるまで生活が厳しいから、住んでたマンションは引き払って、親父と母親、それぞれが実家で暮らすことになったんだよ。
俺と妹は母親のほうに着いて行ったんだけど、なんか、ずっと肩身が狭いっていうか、自分の家族とか親父を恥ずかしいとすら思っちゃって」


先輩は目を伏せるようにして、話してくれた。
長いまつげの先が、ほんの少しだけ震えているように見える。


なんとなく、その長い指の先を、そっと握りしめたくなる。
もちろんできなかったけれど。




「でも、ユッキーの話を聞いて、なんか俺小さいなぁと思って。
俺の家は普通じゃない、だから恥ずかしいなんて思ってたけど、そうじゃないんだよなって。
どの家庭も、多かれ少なかれ事情は抱えてるんだし、何が基準かなんてわかんないんだよな」