それは私が、蒼ちゃんを犬だと思い込んでるせいかもしれないけれど。



「俺ちょっとトイレ行ってくるね。鞄見てて」

「あ、はい!」

先輩が鞄を椅子に置いて立ち上がる。

私は窓の外の空を眺めた。


夕焼け空というよりは、雲が多くて黒っぽい空。
もしかしたら、今夜は雨かな。
なんて考えていたら肩にぽんと叩かれた。

「わっ、びっくりした」

「ケーキセット2つをお持ちしました」


蒼ちゃんはいたずらっぽい目でそう言って、砂糖、ミルクの入った小さな壺を並べてから、ナプキンを敷いた上にスプーンを置く。そしてコーヒーとケーキを並べた。
綺麗な手つきだった。

トレイを右腕に抱えて、ようやく普通の口調に戻った。



「なんだよユッキー。彼氏いるんじゃん」

「え、違う!ただの先輩で、ちょっとお茶しようってなっただけで」

「ま、いいけどね」


そう楽しげに笑ってから、蒼ちゃんは私が見ていた窓のほうに顔を向けた。

そして困ったように、目を細める。


「…なんか雨降りそうな天気だな」

「うん。傘持ってる?」

「…持ってない」

「バイトは何時までだっけ」