…緩んでいた頬の筋肉が、一気に硬直した。


テーブルにやってきた店員も当然、私を見ると一瞬「あ」という顔をした。
さすがにそこは仕事中で、すぐに何食わぬ顔をして、先輩のほうを向く。

別に悪いことしてるわけじゃないけど。
なんとなくメニューに視線を落としたまま、顔を合わせないようにしていた。


もちろん何も知らない先輩は、「コーヒー二つと、ベイクドチーズケーキを一つ、シフォンケーキを一つ」と注文する。


それに対して、

「それでしたら、ケーキセットにしたほうがお得ですのでそうさせていただきますね」

と慣れた口調で返した店員…蒼ちゃんは、私のほうにもちゃんと視線を当てる。


「以上でよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」


…余裕だ。

今朝なんかあんなに寝ぼけてたくせに。
マリナさんマリナさん言ってたくせに。
さすがはW大生といったところか。

不思議とちょっとだけ、腹が立った。




「あの店員さ」

蒼ちゃんが去っていったあとも視線で追う私に、先輩が話しかけてきた。

「はっ、はい」

「俳優の、誰かに似てると思うんだよな…誰だっけ」


どうやら私の挙動不審な態度はバレてなかったみたい。