話を振るのが上手で、それに答えるだけで、自分までもが少し話上手になったような錯覚にさえ陥る。

一緒に歩いているほんの数分のうちに、先輩と目が合ってもそんなに緊張しなくなった。

…すごい。




「…あ、ここだ」


先輩の話術に引き込まれて、周りが見えてなかったせいで。
たどり着いたカフェを指差されたとき、「あれ」と声を出してしまった。



駅からそんなに離れていない、おしゃれなレトロ風のカフェ。
ワイン色の屋根に、クリーム色の壁がきれい。

見た目はなんの問題もなかった。
私が釘付けになったのは、木彫りの看板だった。


――「ラメール」って……







「ここのコーヒーが美味しいらしいんだよね」

「そ…そうなんですか」



機嫌よさそうに笑いかけてくれた先輩に、私は頬をひきつらせながら、本日数度目の「そうなんですか」を口にした。



…あれ、どっかで聞いた気がするけど。


でもまさか、ここで断るわけにもいかない。

先輩に続いて、重たい木製のドアを開ける。
チャリン、と涼やかなベルの音がした。



「いらっしゃいませ」