それなのに、マリナさんとは2日でそうなってしまったというのは、我ながら奇妙な話だ。

もっと真面目な奴だと周囲にも思われていただろうし、親友の俊樹にも思われていただろうし、自分でも思っていた。


でも、「そうなって」しまったんだ。
流れとしかいいようがない、感じ。



「…で、感想は?」


俊樹もさすがに大学生男子で、そういう話にまったく興味がないわけではないらしい。
少し身を乗り出して聞いてきた。


「いや、それが、あまりにあっさりすぎてよく覚えてないんだ」

「なんだよそれ。緊張してて余裕なかったってことか。あっちのが遥かに年上だしな」

「緊張…でもないんだよな。"あれ、こんなもん?"って感じ。
中学や高校のときには、もっとこう、神秘的なものだと思ってたんだよな。好きな人と一つになる、感動の瞬間的な。
でもなんか、あまりにあっさりしてた。マニュアル通りに手順を踏んで、おしまいって感じで。別に悪いこともないんだけど」


誘ってきたのは、あの美しい人のほうからだった。
バラの匂いのする白い手に誘われて、俺はあっさりと落ちた。



でも、それはほんの一瞬のことに思えた。
1ヶ月経った今ではすでに、幻のように思える。
それからは一度たりともマリナさんは誘ってこなかったし、俺も誘わなかった。


…なんか、俺がまずかったのかな。
なんて最初は思ったけど、気にしないことにした。


マリナさんは忙しい人だし。
それに、予想していたよりはいたってシンプルで、特に何回もしたいとは思えないものだったから。