俺は苦笑いしながら、穴のあいたカツを見つめて答えた。
なんとなく、俊樹の顔が見れなかった。
「一回だけね」
俊樹がぽかんとした顔で、スプーンを大皿の中に落っことした。
予想内の反応だった。
「は!?なにそれ、聞いてねぇし」
「まぁね。今まで聞かれなかったし、特に自分から言うようなことではないし」
「てことは」
うん、と頷いて、水をぐいっと飲み干した。
やたらと喉が渇く。
「うん、そう。俺の初めての女(ひと)だよ」
こういう話を自分から得意げにする奴もいるけど、俺は苦手。
特に、前の彼女であるめぐみと付き合っていたときには、もううんざりするぐらい聞かれた。
どこまでいってんだの、そもそも蒼太の初体験はいつだの、
下世話なことを聞いてきたり、聞きたくもない武勇伝を披露する奴までいて困る。
何故か、俺はとっくに初体験を済ませていると思われがちだった。
あまり自分から話さないせいか、余裕みたいなのを感じたのかもしれない。
けど実際は、つい1ヶ月前までは、いわゆる「チェリーボーイ」だった。
めぐみとはたったの2ヶ月で別れたし、そういう仲までは至らなかった。