カチャン、とスプーンを置いてから「あのな」と俊樹は話を続けた。
「お前は頭もいいし性格もいいし顔もいい。家庭だって、いろいろ言われて窮屈なのはわかるけど、恵まれてる。金もある、恵まれた環境だろ。
34歳のおばさんに振り回されて、恵まれた人生を台無しにして、恩を仇で返す気か?」
さすがに体育会系のキャプテンなだけあって、迫力がある。
筋も通っている。
でも、それは今の俺にとって理論で納得できることじゃない。
「俊樹の言うことは正しいよ。ただ、今は冷静に考えられないんだよ。誰にどんな正しいことを言われてもな。
あとからきっと後悔するんだろうなとはわかってるんだけど、どうにも処理できない」
コップの水をあおるように飲むと、小さく息をつく。
俊樹はやれやれと首を振って、「こりゃだめだな」と呟いた。
そして残りのカレーを食べ終えたあと、ティッシュで口を拭いながらぶしつけな質問をしてきた。
「…で、もうヤっちゃったのか?」
カツをフォークでつついていた俺は、そのままブスリと穴をあけてしまった。
「なんだよ、急に」
「…いや、なんとなく」
「体育会はストレートだね」