「あのなー、人気絶頂真っ只中のピンク・レディーでさえ、寝る間を惜しんで彼氏に会いに行ってたって話だぜ。忙しくて会えないなんて嘘だよ、言い訳に決まってる。絶対に騙されてるよそれ」


昼休み。
食堂の端っこで、俺は親友に、何度目か知れない説教を受けていた。

「絶対に騙されてる」


大盛りのカツカレーをスピーディーに消費しながら、高校以来の親友である俊樹(としき)はもうお決まりとなったセリフを繰り返す。

高校からずっとラグビー部のキャプテンで、体格も声も大きい。
ものすごいマッチョというわけではないけど、骨太で、体つきも俺とは全然違う。しっかり鍛えてある。
日焼けしているせいか怖く見えるけど、顔立ちは優しいし性格もいい。

こいつの言うことならなんでも信頼できる、と思うほどの親友のはずなのに、マリナさんの件だけは意見が噛み合わない。


…というか、俺が恋愛ボケしているから話にならなくて呆れられている、というのは重々承知しているんだけど。


「なあ」

カレーのついたスプーンを俺に向けながら、俊樹は諭すような口調で言った。



「めぐみちゃんを振った時点で、お前のことをバカだなとは思ったけど、
ここまでバカとは正直思ってなかったよ」


食堂の雑踏の中でも、野太い俊樹の声ははっきりと聞こえてくる。

俺はカツカレーのカツを一枚残して手を止めると、まっすぐと俊樹の目を見た。



「可愛くていい子で、ゼミの奴はみんな狙ってたらしいぜ。ま、そんなことはどうでもいいけど。
でもそのあとに新しい彼女ができたっていうから、ああそれならと安心したんだ。それが、34歳の子持ちの女なんて知らなかったからな」