「あんなオタク!終始電車の話しかしてなかったじゃない。本気で困ったし!」
「…そ、そっか」
「出会いないかなぁ。本当に、もうやんなっちゃう」
終始電車の話しかしない、男。
終始恋愛の話しかしない、女。
それはそれでバランス取れるんじゃない?
とも、言えない。
もうとっくに心得ている。
…こうゆう恋愛話のときはね、何を言っても8割ぐらいは「なにそれ自慢?」「嫌み?」「モテモテのユッキーにはわかんないよ!」って返される。
だから余計なことは何も言わず、笑顔で聞き役に徹するのが一番。
「…あ、先生来た」
美奈子が席を立って自分の場所に戻ると、ふわっと肩の力が抜けた。
同時にすぐ右隣の窓からいい風が入ってきて
淡い水色のカーテンを揺らす。
水色が日差しを浴びてきらっと光った。
―――篠原由姫乃、17歳。
高校生になって二度目の夏を迎えようとしていた。