純粋無垢な蒼ちゃんに目を醒ましてもらうために、あえて現実を突きつける。
マリナさんは好き。
私にとっては唯一の、最高の母親。
だけど、マリナさんに恋をしてもきっと蒼ちゃんは報われない。
それより早く勉強に戻って、輝かしい未来をちゃんと掴んだほうがよっぽど幸せになれるはず。
「同じ大学の、可愛い子と付き合ったほうがいいよ」
ずっと制服のままだったことに気づいて、カーディガンだけ脱ぎながら、そう言った。
蒼ちゃんがびくっと身を引いた。
「びっくりした。誘惑されるのかと思った」
「なんでよ。誰が」
「恐ろしいな、篠原親子」
そう笑ってから、蒼ちゃんはじっと私を見つめた。
一瞬だけ、どきっとする。
「…何」
「ユッキーなら絶対に告白とかはされてそうだけど、彼氏はいないの?」
「いない」
「好きな人は?」
「いないし、いたこともない」
私の答えに彼は驚いたようだった。
確かに、無理ないかもしれない。
青春真っ盛り、17歳の女子高生が「恋愛をしたことがない」なんて言うんだから。
しかも、マリナさんの娘だし。