んと…



「蒼ちゃん。」


私はぱっと顔を上げて、彼の顔を見た。
イメージとぴったりだ。


「蒼ちゃんって呼ぶ。うん、ぴったり」

「蒼ちゃん…」


彼は目をぱちくりとさせていた。
本当に、子犬みたいな目。


「マリナさんと同じ呼び名だ」

「えっ、嘘」

「ホント。びっくりした。やっぱ親子ってすごいな」


そう笑う蒼ちゃんを見ると、本当に「蒼ちゃん」以外の呼び名が思い当たらないぐらいにそれらしかった。




――なんだ、これ。
会って二日なのに。
勝手に人の家に侵入してきてるのに。
こんなに心を許してしまうなんて。

私がおかしいのか、蒼ちゃんがおかしいのか、さっぱりわからない。





「大学でも彼女がいたことはあったけど」

蒼ちゃんは空になったコップを手で弄びながら言った。

「なんか、続かなかったんだよね。告白されて付き合ったから、それまではよく知らなかったし。可愛いしいい子そうだなとは思ったし、実際にそうだったんだけど。やっぱり受け身じゃだめなんだなぁと思ったんだよ」

ふーん。
可愛いしいい子なのに、何がだめなのかイマイチよくわからない。


これは私が恋愛経験がないからなのかな。



「マリナさんは見た目はいいけど、もう34歳だし子持ちだし、性格はいいっちゃいいけど、気まぐれで自由奔放で、一途じゃないよ」