三木蒼太があまりに素直になるから、返って私が面食らう。
「…だめというか、私は好きじゃないってだけで」
「いや、恋愛を取った時に何も残らなくなる状態ってのはだめなんだよ。俺の大学は頭がいい奴は多いけど、同棲してた彼女に振られて一週間引きこもりになってた奴もいる。まあ、俺の大学に限らずだけどね。
誰でも、そういう時期ってあるのかもなぁ」
――あなたが好きになった人は、年がら年中そういう時期ですけどね。
そう心の中でツッコミを入れた。
ただ、マリナさんは恋愛がなくなってもゼロの状態にはならない。落ち込みもしない。
また次へ、また次へと走っていく。
それを知っているから、私は三木蒼太を哀れに思った。
彼はきっと、ゼロになっちゃうだろう。
私は、なんとしてでも彼の目を醒めさせてあげたくなった。
「大学でもモテるんじゃないの?」
「え?」
「三木蒼…三木さん。きっと私のクラスにいたらファンが普通につくよ」
「蒼太でいいって言ってるのに」
つい三木蒼太と呼びそうになった口を抑えると、見透かされたようにそう笑われた。
蒼太。
そう呼ぶのは本当に親しい人みたいで気が引ける。
私は膝を抱えながら、彼の呼び名を考えた。