私は空になった紅茶のカップにもう一杯そそぎながら、そう言った。
向かい側の彼のカップは相変わらず手付かずのまま。
「蒼太、でいいよ」
私の呆れた口調とは対照的に、彼は人懐っこい笑顔を見せた。
膝の上に置かれた、大きな手に目がいく。日焼けしていない、綺麗な手。
「呼びにくい。」
「まー、そうだよね。…ユキノちゃんはもしかして、"ユッキー"?」
「うん。ユッキー」
「やっぱり」
三木蒼太はなるほどね、と的を得たような表情になった。
私が首を傾げるとにこっと笑った。
「マリナさんがさ、ユッキーがユッキーがってしょっちゅう話をしてたんだ。一緒に住んでるらしいことはわかってたんだけど、てっきり同い年ぐらいのルームメートかと思ってて。まさか娘だとは夢にも思わなかったよ」
マリナさんは、娘がいることは話していなかったらしい。
それでも鍵を渡したということは、三木蒼太が信頼できて、私の存在を知っても拒まないとわかっていたからなんだろう。
やっぱり、そういう意味ではマリナさんは馬鹿じゃない。