「…でも、家に連れてきたことはあるけど鍵を渡すなんて滅多にないから。だいぶ気に入られてるみたいですね」
何故か、意味のないフォローをしてしまった。
三木蒼太は顔を上げた。
柔らかそうな黒髪が隙間風に少しだけ揺れる。
「マジで?」
思いがけない、嬉しそうな笑顔に私は面食らった。
なに、この人。
「マリナさんの特別に、なれる?」
彼は綺麗な目をぱちぱちさせながら、私にそう聞いてきた。
…んなこと、知らないよ。
私は驚き呆れて、「三木さん」と宥めるように言った。
彼よりも私のほうが大人みたいだ。
「あのね、W大学なんでしょ。頭いいんでしょ。素敵な将来が待ってるのに、こんな恋愛に足突っ込んでいいの?」
馬鹿だなぁ。
久しぶりに、哀れみを込めた気持ちでそう思った。