昨日の帰り道、かかってきたけど番号を知らなくて無視した電話。
たいして気に止めてもなかったけど、今ようやく思い出した。
「出なかったの?」
「だって、私、先輩の番号知らなかったし。知らない番号からの電話は出ないことにしてるから」
美奈子の鋭い目の光が、少し和らいだように見えた。
私は少しだけ、美奈子が怖いと思った。
…なんで、そんなに必死なんだろう。
「そっか、お互いに電話番号は知らなかったんだよね」
美奈子は私の前の席に腰を降ろして、右手に携帯をいじりながらそう言った。
私がまだ変える気になれない、最新のスマートフォン。
器用に親指を滑らせながら、何かを操作しつつ、会話を続ける。
「うん、アドレスも知らない」
「あ、そうなんだ」
「でも…じゃあ中川先輩はどうやって私の携帯に電話してきたんだろう」
本当は、とっくにわかってること。
それなのに、思わず口をついて出た。
でも美奈子は全く悪びれるふうもなく、さらりと答えた。
「今日何曜日だっけ?」という質問に「あ、木曜だよ」って返すみたいに、自然に。
「あー、あたしが教えたの。あたしは先輩に番号教えてたから、そしたら電話かかってきて。有紗とユッキーの番号教えてって」