とても凶悪そうには見えない。
顔もいいし、人柄も良さそう。
でも、マンションに男を上げて襲われたり殺されたりした話は耳が腐るぐらい聞いてきた。
ニュースを見るたび、上げるほうが馬鹿だよねって呟いたりした。
私は馬鹿になっちゃいけない。
もう一度インターホンが鳴った。
当然、無反応を決め込むしかない。
しかし彼は今度は困惑する様子も、そわそわも見せなかった。
ポロシャツの肩に掛けていたカバンから、何かをごそごそとあさりだした。
――な…
まさか、
思わず目を見開いた。
彼が手にしているのは鍵で、しかもその先には赤いリボンのキーホルダーが付いている。
――マリナさんの、鍵。
唖然としたあまりに、私はドアノブから手を離していた。
あ、しまった!
そう思ったときにはもう遅い。
カチャリ、という音と共にドアがゆっくりと開いた。