部屋を間違えてるならいい。
でもそうじゃなかったら?
…これだからマンションの防犯なんて信用ならないのだ。
暗証番号さえ知れば誰でも入れちゃうし、防犯ベルも鳴らない。
私はドアノブを強く引っ張ったまま、息を殺して顔の右半分をドアにぺたりと押し当てていた。
さっきまで平和だったのに、数分後にはサスペンス。
人生って本当にわからない。
カチ、カチ…と腕時計の微かな音さえ聴こえる。17時25分。
ごくっと息を飲み込んだとき、"チーン"という音がした。
――エレベーターの音。
そしてコツ、コツコツ…と硬い足音が聞こえてくる。
残念ながら、マリナさんのハイヒールの音じゃない。
この部屋、406号室は一番奥。
だから早く足音が止まることを願った。
…けど。
コツコツ、コツ…
足音は確実にこちらに近づいてきて、
ドアの前で止まった。
覗き穴に目を当てる。
――さっき見た人と、同じ。