それどころじゃなくて、
ホントは早く応答用の電話を取って「誰ですか?」と聞いてあげなきゃいけないんだけど、
何故か手が動かなかった。
――なんせ、人見知りなのだ。
宅配便ですら緊張してしまうのに。
第一、こんな大学生ぐらいのお兄さんと我が家が関係しているとは思えない。
部屋指定を間違えたのだろう、きっと。
ノーリアクションを決め込んで、モニターを切ろうとスイッチに手を伸ばした。
でも、その一瞬前に彼が微かに動いた。
「…え?」
こちら側(カメラ側)に手を伸ばして、何かの操作をしている。
そして数秒後、彼の姿が画面下に向かって消えていった。
――その更に数秒後、私はようやく理解した。
暗証番号だ。
背筋がゾクッとして、慌ててドアへと向かった。
鍵が掛かっているかを確認して、覗き穴に右目を押し当てる。
口の中はカラカラだったけど、もうりんごジュースなんてどうでもよかった。