彼は、突然現れて、突然去っていきました。
今はどこで何をしているのか分かりません。
彼がいなくなったあと、私は何回かw大学の前を通ったりして、あの目を引くような赤いバイクを探しました。
…街の中で、柔軟剤の匂いをふと感じるたび。
赤いバイクを見かけるたび。
心臓がはねあがって、振り向いて、肩を落とす。
そんな日々を繰り返し、月日が流れていくにつれて、私の中の彼の記憶も少しずつ薄れてきました。
――どんなに忘れたくないことでも。
時間の流れに、記憶は勝てないものです。
彼の顔はぼんやりと霞がかってきたし、
声はもう聞こえなくなりました。
何年も心にとどめておくには、一緒に過ごした時間はあまりに短かった。