…セットのほうがお得なことは、もうわかっていた。
「来たことあるの?」
香奈に聞かれて、「前に一度ね」と適当に濁す。
前にはここにいた人を二人も失ってしまって、少し店内が寂しく見えた。
窓の外を見た。
景色は変わらない。
だけど少しずつ、少しずつ、確実に変わっていくんだろう。
――「傘持ってる?」
「持ってない」
そんな会話をしたことを思い出して。
彼の声を思い出して。
胸がぎゅうっと締め付けられるように痛くなった。
…あれ。
思い出すのは、先輩じゃなくて、蒼ちゃんのほうなのか。
「お待たせしました」
お姉さんの声と、わーいという香奈の声で回想が遮られる。
目の前にコーヒーの湯気が見えた。