私は口をつぐんだ。
「芯の強さと、ガラスみたいな脆さを持った子で」
「…」
「人一倍気遣いで、さみしがりやなところもあって。…時々俺をバシッとたしなめてくれるんです」
「…うん」
彼の温かい目を、感じることができた。
受話器越しでも確かに、感じる。
「母親って…というか、マリナさんってすごいなと思ったんです。
あんなに繊細で優しくて綺麗な生き物を生み出す力を、持ってる。
あれを生み出したり、幸せにしてあげたりする力は、俺には無いような気がしたんです」
私はぎゅっと鍵を握り締めた。
目の奥が熱くなった。
温かいものが、溢れだしそうになる。
「だから、俺の代わりに幸せにしてあげてください。大好きなんです」
――ありがとう。
ありがとう。
それが精一杯だった。
もう言葉なんて、いらない気がした。