「…あ、もしもーし」
――その夜、私は初めて自分から電話を掛けた。
ユッキーが寝静まったあと。
本来なら電話を掛けるべき時間ではないけれど、きっと彼は起きているだろうと思った。
しばらくコール音がしたあと、戸惑ったように「…はい」という声がした。
数日ぶりに聞く声。
相変わらず耳に馴染む、いい声だ。
「蒼ちゃん、勉強してた?」
「…いや、してません」
「だめじゃん」
私がそう笑うと、彼もつられて小さく笑う。
そして彼はおもむろに、言った。
「…マリナさん、鍵、ありがとうございました」
帰宅したときにポストに入っていた鍵。
ふと思い出して、床に投げ出したままのスカートのポケットを探る。
…あった。
「いいえ。…両親とは、仲直りできたの?」
私は鍵を手で弄びながら、そう聞いた。