マリナさんは明らかに驚いて、戸惑っていた。

私がこんなに熱くなって、こんなに感情を剥き出しにしたことがないからだろう。


…実際、これまでに、マリナさんのすることにここまで怒ったことはなかった。

呆れたり軽蔑したりすることはあったけれど。


――ここまで胸が苦しくなって、熱くなって、叫びたくなることはなかった。

だって蒼ちゃんは、私なのだ。


バカみたいに本気になって、1人で呆気なく終わらされてしまった。
だけど叫ぶこともできない。



――マリナさんは、知らない。

マリナさんがいなかった五日間、蒼ちゃんがどんな想いでマリナさんを待っていたかを。


名前を呼ぶたび、
メールが来るたび、
部屋で眠るたび、
どんな表情だったかを。

…それがあまりにも優しくて、純粋で、いとおしくて、

その仕草や顔、手、声、話し方、すべてが私のドストライクで。



――私がそれを、どんなに羨ましく想っていたかを。




「…っ、マリナさんが誰を好きになろうが浮気しようが、傷つけようがどうでもいいよ…今までだって、どうでもよかったし、これからも咎めないよ。
…でもね、蒼ちゃんだけは、傷つけちゃいけなかった!

なんでかわからないけど…蒼ちゃんだけはやめてよ…! 自分勝手に傷つけないで!…あんな人を、もう傷つけちゃいけない…」


私は何故かボロ泣きしていた。
いっぱい、いっぱい、涙が出てきた。

私の涙と蒼ちゃんの涙。
二倍なのかもしれない、と思うぐらいに。