どうしてかな。
…なんか、私よりも、幸せになって欲しい。
マリナさんよりも、私よりも、ずっとずっと。
決して純とはいえない恋愛をしてるのに、
――蒼ちゃんは私が見てきた中で一番綺麗で、汚れがなくて、純粋な人だった。
「そうするよ。頑張る。
…もう、終わったんだ。なにもかも。この場所で」
蒼ちゃんは自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
明日からはきっともう、会うことはない。
何も言わなくてもわかっていた。
最初から結局、私と蒼ちゃんは連絡先の交換もしなかった。
きっとラメールもやめるだろう。
マンションの鍵も返すだろう。
もっと季節が流れれば、蒼ちゃんは社会人になって、もっと広い世界に出て行く。
私はまだ学生で。
きっともう、世界が違ってしまう。
ほんの一瞬の夢だったんだ。
蒼ちゃんと一緒にいた時間は。
私は蒼ちゃんの手にそっと触れた。
そして、ぎゅっと握りしめてみた。
思ったよりもずっとごつごつしていて、思ったよりもずっと温かい手だった。
蒼ちゃんの手に力が込められる。
そっと握り返されたときに、指先にまで熱さが伝わるのがわかった。
…指先に籠る、熱。
空を見上げた。
いつのまにか、思っていたよりも時間は流れていて。
淡い紫とオレンジが入り混じったような、不思議な色の空だった。
優しい、淡い色。