まるで、風の音のように。
ふわっと放たれた言葉に首を傾げると、蒼ちゃんが「知らない?」と微笑んだ。
「玉の響きって書いて、たまゆらって読むんだ。万葉集か何かに出てきてさ」
そしてつまんだパールを大事に握りしめながら、目を閉じた。
その唇から、柔らかい口調で、言葉が紡がれる。
「玉響の
昨日の夕べ見しものを
今日の朝に恋ふべきものか」
――ほんの一瞬、昨夜に逢っただけなのに
今朝はもうあなたのことが恋しいのは、
どうしてなのでしょうか。
…そういえば、教科書で見たような気がする。
でも、そんな言葉は覚えていなかった。
「玉の響きで、玉響。
玉同士がぶつかりあった時に響く音がほんの一瞬だから、
ほんのわずかな時間って意味の言葉なんだって。
…なんか印象に残って、ずっと覚えてたんだよな。きれいな日本語だなって思って」
私は蒼ちゃんの目を見た。
蒼ちゃんも、私の目を見た。
――どうしようもないぐらいに、繋がっていた。
玉響の、瞬間。
「勉強しなよ。今からでもまた、頑張って勉強して、親孝行しなきゃ。
蒼ちゃんは賢い人なんだから」
私はそう笑った。
心からそう思った。