目を閉じると、視覚以外の感覚が敏感になる。

川が流れるかすかな音。
耳元で鳴る風の音。

水の匂い。
隣からふわりと香る、柔軟剤の匂い。




――ずっとこの中にいたいなぁ。
なんて、思ってきた。




「蒼ちゃん、私ね」

「…うん」

「あの先輩に振られちゃった。振られちゃったというのか…あの先輩、最初から私のことなんか好きじゃなかったみたい」


ふふ、と笑みが零れてきた。
真面目に考えれば考えるほど、おかしかった。

あれこれ気にしてたのがバカみたいで。
全部、私の一人芝居みたいに思えてくる。



「…でもね、不思議だよね。今考えてもそうだし、その先輩に会う前の自分だってきっとそう。
普通に考えたら、すぐに家に誘ってくるなんておかしいし、私みたいに話が上手なわけでもなくて、愛想がいいわけでもない子を、ああいうタイプの人が好きになるわけない。

どう冷静に考えたってわかるはずなのに…なのに、あの瞬間の私は確かに先輩が好きだったの」