マリナさんなんかよりも、遥かに残酷に思える。
あんなに優しくて気遣いで。
誠実で。
ああ、いいなぁって。
私、恋してるなって。
…そう、思えたのに。
「前の彼女が、ずっと忘れられなくて」
「…」
「必死に忘れようとしてたんだけど、やっぱり無理だったんだ。…ユッキーには最低なことをした。
ごめん。殴っていいよ」
ごめん。
なんて…。
ごめん、なんて、終わってしまったあとに言っても追い討ちをかけるだけで。
なんの慰めにもならない。
「…っ」
私は先輩に、歩み寄った。
先輩は動かない。
殴っていいよ。
そう言ったから、殴られるつもりなんだろう。
私は拳をぎゅっと握り締めた。
それを持ち上げようとしたけれど、出来なかった。
――きっと蒼ちゃんは、マリナさんを殴らないだろう。
死んでも殴らない。
たとえどんなに傷つけられても。