「あ…やば…」



マンションの前に着いたとき。

もう空はすっかり黒くなっていて、19時を回っていた。


携帯にはなんの着信もない。
結局まだ蒼ちゃんの番号聞いてないし。
マリナさんは連絡なし。

4階の部屋には電気がついていた。




「ただいま!蒼ちゃん、心配かけてごめん…」



ドアを開けるなりそう言うと、ふわんといい匂いが漂ってきた。
甘いクリームのような匂い。


…なに、これ。

急いでリビングに駆け込むと、「おかえりユッキー!」と元気な声がした。





それはそれは不思議な光景。


――1週間ぶりに見るアユミちゃんと、蒼ちゃんが向かい合って座っていたんだから。



「…な、なにこれ」


ぽかんとする私に、蒼ちゃんが「あ、おかえり」と笑いかけた。

そしてアユミちゃんが私を振り向いて、ラップをかけたお皿を持ち上げてみせる。


「おかえり、ユッキー。カルボナーラ持ってきたよん」

「え、嘘!やったぁありがとう」


長かった髪をばっさり切ったアユミちゃんは、一瞬誰だかわからなかった。

相変わらず細いし肌はきれいだし、さすがマリナさんの友達というべきか。




「マリナからメール来てたから。ここ数日忙しくてユッキーを放置しちゃってるから、良かったらごはんお願いって」