「俺の家、来ない?」
「…先輩の、家ですか?」
「ゆっくり話せるし、周りを気にしなくていいから、どうかなって」
――おいでよ。
その手に導かれるままに、知らず知らずのうちに、頷いていた。
どうしてそこまであっさりとOKしてしまったのかはわからないけど。
先輩の家は、ラメールに結構近くて、駅からもそれほど離れていなかった。
和風の二階建てで、住宅街の中でもなかなか大きい。
…この前聞いた、お父さんの話からは少し想像しにくいぐらい、立派な家だった。
「広い家ですね」
「見た目だけはね。これは母親の実家なんだけど、母方のおじいちゃんは昔実業家だったみたいだから」
先輩がドアを開けて、「どうぞ」と言ってくれた。
家の中はしんとしていて、畳の匂いがした。
…おばあちゃんの家を思い出す。
「誰もいないんですか?」
「母親はパートで、妹は遊びに行ってる。じいちゃんたちは旅行中だし」
階段を上がって、二階の奥にある先輩の部屋に入る。
男の人の部屋に上がるのは初めてだった。