きょとんとする先輩に、「なんでもないです」と笑顔を返した。


…結局授業が全部終わっても、有紗は一度もこっちを振り向くことはなかった。
美奈子に、さっき私と話したことを伝えたのかはわからない。たぶん伝わってるだろう。

ホームルームが終わるとともに、二人は肩を並べて教室を出て行った。
今まで一緒に帰ってくれていたことさえ、奇跡に思えてくる。





「…でね」

「…」

「ユッキー、聞いてる?」



――歩きながらも、ずっとさっきのことが頭から消えなくて。
先輩に肩を叩かれてからはっとする。

先輩の声は聞こえているのに、右から左へと流れてしまって、どうも集中できない。
申し訳なかった。


「…すみません。なんかちょっと、疲れてるみたいで」

「なんかあったの?」

「…いえ、ちょっと…」

「ユッキー」



目を逸らして、受け流そうとしたけれど。
先輩に肩をがしっと掴まれた。

先輩の細い目が、さらに細くなる。
少しかがみこむようにして、無理やり目を合わせてくる。


誤魔化しの利かない、まっすぐな視線。



「話してよ。俺、ユッキーの話が聞きたいんだから」

「…でも…」

「一方的なのは、やなんだよ。
もっとユッキーのこと知りたいんだ」



肩に感じる、あたたかさ。
強い力。

…ああ、先輩は男の人なんだ、と思った。

それと同時に、それに対してどこか心をくすぐられている自分がいて。