「…有紗は…自分では、何も出来ないんだね」
その言葉を受けて、小さな背中が静止した。
そしてゆっくりと私を振り向く。
屋上の扉に手をかけたまま、有紗は「え?」と怪訝な顔をした。
「だって、先輩が可哀想だというわりには自分から誘うこともしないし、声をかけることもしない。
美奈子まで巻き込んで、私を無視するのも、私が先輩に興味を持つのを止めるのも、全部美奈子がいないとできない。
…自分からは、何ひとつ動いてないじゃない。
それでも、うまくいかないのは私のせいだって言うんだね」
扉に置いていた有紗の小さな手がかすかに、震えていた。
あ、叩かれる。
そう思ったけれど、あえて避けなかった。
…予想通り、次の瞬間、頬に軽い衝撃を感じた。
パシッとした乾いた音。
手が薄くて小さいから、あまり痛くはなかった。
――それでも、彼女なりの精一杯の力だったんだろう。
「…ゆ、ユッキーなんか。あんたなんか、大嫌い!
いなきゃ良かったのに」
「私がいなくたって、有紗なんかに先輩は無理よ」
私は頬を押さえたまま、表情を変えずに言い切った。
…有紗とこんなふうに向き合ったのは初めてで。
中途半端に終わらせてしまいたくない。
そう思った。