有紗が何も言わない分、質問ばかりが飛び出てしまう。
数秒の沈黙のあと、有紗がか細い声で「…なかったよ」と答えた。
「…え?」
「なかった。…中川先輩から連絡なんて、一度も」
「あ…そうなんだ。じゃあ美奈子は」
「ねぇ」
有紗は私の言葉を遮った。
相変わらず声は大きくないけど、今度はさっきよりはっきりとした声だった。
ビー玉のようだった瞳が、かすかに揺れる。
なんらかの感情が籠った目だった。
「…ユッキー、勘違いしてるよ」
「え…」
「美奈子はね、中川先輩のことなんか好きじゃない。
…だって、別の高校に彼氏がいるし」
有紗は私の前を離れて、そっとフェンスに歩み寄りながら、そう言った。
そして、初めて耳にする情報に戸惑いを隠せない私を、振り向いた。
薄い唇の口角が少し上がる。
そしてくすっと笑った。
「知らなかったよね?…わたしは全部知ってたけど。だって友達だし」
友達。
その言葉を鋭く強調して、有紗は私の胸に突き刺した。
まるでカッターナイフのように。
「だからね、ユッキー」