――朝。


まだまだ夏はこれからだ、というような厳しい日差しに目を細めた。

日焼けしにくい体質とはいえ、日焼け止めクリームを塗る。


…それでも、まだこの時間は風が涼しい。





「いってきます」


今日は授業が午後かららしく、マリナさんの部屋でまだ寝ている蒼ちゃんに、そう声をかけた。
もちろん反応はなし。
部屋はカーテンを閉めたままで、暗い。



昨日寝る前に、「いい加減帰ってこい」というメールがご両親のどちらかから届いたらしい。

家出なんてしたことがなかったし、どうせその日中に帰ってくるだろうと思ってたから、さすがに心配になったんだろう。
そう言いながらも、蒼ちゃんは少しだけ嬉しそうだった。



蒼ちゃんの家が驚くほどのお金持ちだったことを、私は昨夜初めて知った。

お父さんはあの三木財閥の社長で、お母さんは元女優。
そういえば、「三木」という苗字はどこかで聞いたことがあるなと思っていた。



二人兄弟で、蒼ちゃんは下。
お兄さんはお父さんの会社を継ぐのに、蒼ちゃんはその会社とは関係なく、自分で仕事をしたかったらしい。

ただでさえそれが気に入らない時に、マリナさんに恋したせいで集中力が落ちて、成績も落ちて。
ついにお父さんの怒りが爆発したのだった。