「ふぅ、ここまで来ればあいつらも追いかけてこないでしょ」


右手で汗を拭う先輩。
そして、先輩の左手にいまだに握られているのはあたしの右手。


心臓が早鐘を打って、乱れた呼吸をなかなか整えることができない。


「せ、先輩……あの……手っ」


しどろもどろで言うと、先輩は「あ、ごめん!」と手を離してくれた。


本当は……ずっと繋いでいたかったけど、ドキドキしすぎて死んでしまいそうだった。



「……あの、田代先輩……どうして……」


こんなところで、しかもこんな時間に会えると思わなかったから、なんとなく気になって聞いてみる。


「俺もサボりみたいなものだよ。たまたま近くを通りかかったら、君が妙な輩と歩いていくの見えたからさ」


田代先輩が優しく微笑んだ。


「伊沢はるひちゃんでしょ?」


「えっ……」


“何で”と言いかけて、あたしは口を閉ざす。


先輩があたしの名前を知ってる理由なんて、見当がついてる。



ひーの友達だから。


あたしは、“ひーの友達の”伊沢はるひ。