「──やっぱり、ダメ!」



あたしは慌てて、高村くんから離れた。


驚いた様子で、高村くんがあたしを見つめる。


「やっぱり、ダメだよ……。だってあたし……」


田代先輩が好きだから、というのも理由のひとつだけど。


あたしが先輩を好きだと知ったうえで、高村くんは好きだと言ってくれた。


こんな思わせ振りなことをしたら、きっと高村くんを今以上に傷つけてしまう。


大切な人だから、そんなこと絶対にしたくない。


傷つけたくない……。



「あ、あたしもう大丈夫だから!教室戻るね」



居たたまれなくなって、あたしは高村くんから逃げるように走りだした。


「あっ……伊沢!」


「ごめんなさい……ありがと」




危なかった……。


あたしは高村くんから逃げると、自分の両手に目を向ける。


あのまま……あのまま、高村くんの温もりに包まれていたら。

あたしはきっと、この両手を高村くんの背中に回していた。


でも、それは絶対してはいけない。



あたしは、高村くんの気持ちには応えられないから──。