「はる、帰ろう?」


ぼんやりしていたあたしの顔を覗き込みながら、ひーが優しく言う。


「あ……うん」


あたしが頷くと、ひーは満足気に笑った。


と……その時。



「……っあぶない、ひー!!」



道路側を歩いていたひーの腕を、あたしはとっさに自分のほうに引き寄せる。


その直後、猛スピードで黒の乗用車が通り過ぎていった


「……ったく。明らかにスピード違反でしょ、あの車……。
ひー、大丈夫?」


「うん、平気」


ひーの小さな身体に、ケガらしきものはひとつもなかった。


「ひー。フラフラしてないで、もっとちゃんと周りを見ながら歩きな。今度は助けてあげられるかわかんないよ」


あたしが叱ると、ひーは反省もしないで笑った。



「うん、ごめんね。ありがとう、はる」



陽だまりのように温かなその笑顔は、あたしの頬を自然と緩くさせる。


無事でよかったと思う自分がいることに、あたしは気付かないふりをした。