無言で見つめられること数分。


そろそろどうにかしようと、俺が決意した時だった。



「高村律……」



「──え?」



伊沢の目線が、床へと落ちる。


汚れたフローリングの床に、俺もつられて目を移す。


だから、伊沢の言葉を聞き逃しそうになった。



「すごく綺麗……。
素敵な名前……だと思う……」



伊沢の小さな声も、誰もいない教室ではよく響く。


その言葉は、俺の耳に温かく届き、優しく心に染みた。



「伊沢……」



“いつか必ず、現れるわよ”


“素敵だって言ってくれる人が”



気休めや、同情なんかじゃない。


だって伊沢は、ほんの少し、かすかだけど微笑んでいたから。



『素敵な名前……だと思う……』



──ああ、彼女だったんだ。


俺がずっと探していた人。


俺の名前を、素敵だと言ってくれる人。



柄じゃないけど、運命なんだと思った……。