お母さんの言葉を真に受けた俺は、その時から言い返すことをやめた。
そう言ってくれる人が現れてくれるまで我慢してきた。


だけど、もう思春期も迎えてくると、そんな人はいない、この先現れないってなんとなくわかってしまった。


だから俺は、諦めた。


言い返すことも、素敵だと言ってくれる人を探すことも。


諦め続けてきた結果がこれだ。


……まあ、別にいいんだけどね。


俺の名前をどう思おうが、人それぞれだし。


ため息をひとつついて視線を教室の中に戻すと、あの不思議な女子──伊沢と目が合った。……ような気がした。


伊沢は俺をまっすぐに見て、それからまた何事もなかったかのように教室を出ていく。


本当に一瞬だったのに、俺の頭からあの伊沢の顔が離れない。


感情を宿していないように冷たいのに、射ぬくような強い目。


それがすごく印象的で。


俺の心を見通しているような顔だった。