「──夢の中でね、はるの声が聞こえたんだ」
「あたしの?」
「うん。真っ暗な中、私は前がどこかもわかんない、進むべき道もわかんないまま走ってるの。そしたら……『ひー』って」
特別に病院に泊まらせてもらうことになったあたしは、ひーのベッドの脇で壁に寄りかかる。
美香子さんが持ってきてくれた毛布を肩から被ると、ひーが「あのね、はる」と語りだした。
暗闇の中、必死で走る夢を見ていたらしい。
「すぐに声のする方を目指して走った。はるの声だって思った瞬間、ああ、はるが道案内してくれてるんだってわかったの。そしたら……真っ暗だったのに、光が見えたんだ。はるのおかげだね」
「あたしは……別に何もしてないよ。夢の話でしょ」
満面の笑顔で「はるのおかげ」なんて言われたら恥ずかしくなってくる。
思わずそっぽを向いてしまったけど、それも気にすることなく、ひーは言葉を繋いだ。
「ううん。はるはいつも私を助けてくれる。ありがとう、はる」
──“ありがとう”はあたしの方。
ありがとう、ひー。
生きててくれて。