ひーは、必死で何度も帰ってと訴える。
懇願するような目で。
必死に、あたしたちを部屋から出るように説得を試みている。


「ひー?どうしたの……?」


「っ……何でもない、何でもないよ……」


明らかに……様子がおかしかった。


だけどあたしは、ひーが「それ以上聞かないで」と言っているような気がして。


「……わかった、じゃあ帰るね」


それしか言えなかった。


「伊沢っ……」


「行くよ、高村くん」


なおも食い下がろうとする高村くん。


あたしはそんな彼の腕を引いて、ひーの病室を出る。


「ひー、何かあったら言ってね」


ドアを閉める間際、あたしは笑顔でそう言った。


なのに……



「……」



ひーは俯いたまま、何も答えてはくれなかった。




「よかったのかよ、伊沢!」


病院を出るなり、高村くんが声を荒げる。


よくはない。
あたしだって、あんなひーを置いていくことに納得してるわけがない。


だけど、しょうがないじゃん。


「いいの。ひーは大丈夫って言ってたもん」


信じるふりをして、あたしはひーの異変から目をそらした。