保健室でのことを、気付かない間に千春ちゃんに見られていたらしい。
好きな人が、他の女の子にキスしてる場面を見てしまうなんて、どんなにつらいことなのだろう。
千春ちゃんは、こんなふうに強気でいるけど、相当傷ついたはずだ。
あたしが無関係を装うのは、千春ちゃんに対して失礼なことで、さらに彼女を傷つけることになる。
でも、だからといって答えるわけにはいかない。
あたし自身の答えが、まだ少しも出ていないから。
「伊沢先輩は、律先輩のこと好きなんじゃないんですか?」
わからない……肯定も否定もできない。
何も言わないあたしに呆れたように、千春ちゃんは大きくため息をついた。
「あくまで関係ないと言い張るんですね」
そして、次の言葉はあたしの心に冷たく響いた。
「さんざん律先輩に頼るだけ頼って、振り回しておいて、ファーストキスを奪われたからって距離を置く。
あなたのほうが最低じゃないですか」
何で……
関わりもない一年生が、そんなこと知ってるの?