だけど桜とは違う。
「雪はそこに生きてた証っていうのがないんだ」
桜は木が残っているから、確かにそこに存在していた証があるけど。
雪は冬が終わり、春が来れば、本当に雪なんて降っていたのかわからないぐらいに、跡形もなく消えてしまう。
儚すぎて、切なくなる。
でもだからこそ、
見る者をあんなにも魅了させられるほど綺麗なんだと思う。
「……悲しいけど、あたしにはそういう生き方のほうが合ってると思うんだよね。
誰の心にも残ることなく、静かに消えるの」
あたしが言うと、
「残念だけど、伊沢は雪みたいにはなれないよ」
しばらく黙っていた高村くんが口を開いた。
そして、そっと……あたしの右手を握った。
「俺が伊沢を覚えてるから。
生きた証はちゃんと残るから」
繋いだ右手がやけに熱い。
いつの間にかあたしを見つめていた高村くん。
その瞳は、ただまっすぐにあたしだけを映していて。
ドクン、と心臓が大きく跳ねた。
「ありがとう、高村くん……」