「──…わ! 伊沢!」


耳元で声がして、あたしは慌てて立ち上がった。


椅子がガタンと大きな音をたて、同時に、机に広げていたノートや教科書がバサバサと落下。


まるでお笑いコントみたいなその状況を見て、クラスのみんなはどっと笑いだす。



文化祭が終わり、いつもの学校生活が戻った今は、数学の授業中。


「文化祭の余韻に浸るのもいいが、もうすぐ中間考査だってことを忘れるなよ」


半分ハゲてる数学の先生は、あたしに向かって言うと授業を再開させる。


軽く頭を下げてから、あたしも遅ればせながら授業に参加。


座る時にひーと目が合ったような気がしたけど、気付いてないフリをした。


ひーとは、あれから一言も口をきいてない。
登下校も別々になった。


「喧嘩しちゃったの?」と、みんなは心配そうに訊いてきたけど、あたしは苦笑するだけで何も言わなかった。


ひーはひーで友達がいるし、あたしには香波ちゃんたちがいてくれるから学校で過ごすことに問題はない。



だけど……心は鉛があるように重かった。