こんなの綺麗事。
自分を正当化したいがためについた、卑怯な嘘。
でも……それぐらい許してくれたっていいじゃない。
そう思いながら高村くんを見ると、思わずドキッとした。
高村くんは、今まで見たことのない優しい笑顔を浮かべていたから。
「俺、伊沢のそういうとこ、ホント好きだ」
やめてよ、そんなふうに笑いかけられると、
「どうしていいかわかんないよ……」
《後夜祭に参加する生徒のみなさんは、16時に校庭に集まってください──…》
そんな校内放送なんて、この音楽室には聞こえない。
「1日だけでもいいから、ひーになりたい……!ひーになって、田代先輩に好きになってもらいたかったよぉっ……!!」
音楽室に響くのは、校内放送でもましてやピアノの音色でもない。
あたしの……素直な気持ち。
高村くんは、あたしを抱き締めて、ただ黙って聞いてくれていた。