吹奏楽部は外で演奏中だし、合唱部は体育館のステージにいる。


もともとあまり使われない、この第二音楽室は、ひとりになるのに絶好の場所だと思った。


なのに……



「何で……高村くんは、いつもあたしを見つけちゃうの……?」



夕陽に目を細めながら、高村くんは遠くを見た。



「伊沢のことが好きだから!」



……答えになってないし。


「なぁ、伊沢ー。ミスターコン、俺に投票してくれた?」


「してない」


「うっわ、まさかの即答!?」


拗ねたように口を尖らせる高村くんを無視して、あたしは窓の外をぼんやり眺める。


「じゃあ、やっぱ……田代先輩に投票したの?」


なおも質問を続ける高村くんが、今日はちょっとだけうっとうしい。


「してないよ。あたしはミスもミスターも誰にも投票してない」


きっぱり言うと、高村くんは「何で?」と心底不思議そうに首を傾げた。



「あたしは、他人に優劣をつけられるほど良い人間じゃないから」