「一人か?」
「は?」
「一人で来たのか?」
「…うん。」
……何なの?
怪訝な表情をしているあたしに、彼は「そうか」と呟いた。
それから、天井を見上げて、まるで独り言みたいに言った。
「こんな時間に…恵が心配するだろう。」
彼の口から出た“恵”という名前が、あたしの心臓を凍りつかせた。
あたしのお母さんの名前は、“桐谷 恵”だ。
マジで訳が分からない。
あたしのことを“ちづ”と言った。
ばあちゃんを“明子”って呼んで、お母さんを“恵”…。
コイツ…本当に何なの?誰なの?
面倒くさいって片付けていいことじゃないと思った。
ぜったい普通じゃない。
だって、コイツがあたしを知ってたとしても、あたしはコイツを知らないのだ。