数日経っても、ばあちゃんが目覚めることはなかった。
お母さんと一緒に何度か病院へ行ったけど、ばあちゃんは日に日に衰えていくようだった。
生きているのに、死んでいるみたい。
あたしは、そんなばあちゃんを見たくなかった。
病室のベッドで眠っているのは身体だけで、ばあちゃんはばあちゃんの家にいるような気がした。
だから、お母さんから鍵を貰ってばあちゃんの家に行ったりする。
鍵を開けて玄関に入るとムッとした空気が押し寄せて、あたしは嫌でも認めるしかない。
ここに、もうばあちゃんはいないのだ、と。
主を失った家の中は蒸した空気が立ちこめていて、あたしは真っすぐ縁側に向かってすべての窓を開け放つ。
縁側にはブタの蚊取り線香があった。
蚊取り線香は少し小さくなっていて、縁側に姿勢良く座るばあちゃんが脳裏に浮かんだ。
この家は、ばあちゃんが倒れた日から時が止まっているのだ。
風に揺れる風鈴の音色が、今日は何だか切なかった。