「何?」


「見ろよ。」


彼の視線の先を追いかけて、あたしは固まってしまった。



「…うっわぁ!」




あたしと彼が立っている場所から見えたものは、街の夜景だ。


眼下に広がる煌めきは呼吸さえ忘れるほどの美しさ。
まるでファンタジーとか、SFの世界だ。



「…スゴい。」


知らなかった。

あたしが住んでいる退屈な街は、こんなに綺麗だったのか。


大きな工場やスーパーマーケットの明かりは幻想的で、商店街の温かい光はホッと落ち着く。

家々の一つ一つは、空に輝く星みたい。


自殺の名所なんて言われてる橋もライトアップされていて、青白い光の中で美しく輝く。


「疲れただろう?少し休もう。」


「…うん。」



まさか、ホラーとかオカルトの匂いがぷんぷんしてる場所で、こんな絶景に出会えるなんて。


「あっ!お祭り!」


「え?」


「ほら、あそこ!今日お祭りやってるの。」

あたしが指を差した先は、一際華やかだ。

夕焼けのような色をした提灯の明かりがどこまでも真っすぐ続いている。



「あっ!あれは墓場じゃないか?」


「ちょっと!変なこと言わないでよ!」


彼は楽しそうに笑う。
「やっぱり怖いのか」、と言いながら。

その笑顔に、あたしはまた奇妙な胸の苦しさを覚える。