「彩織!成海と桐谷デキてんだって!お前、失恋じゃん!?」
デリカシーの欠片もない久保田の一言で、彩織は両手で顔を覆って泣きだした。
あちこちから「サイテー」という女子の声が降る。
それは全て、あたしに向けられたものだ。
彩織は悠のことが好きで、だから手を出すな。
それは公然のルールのようなものらしく、こういう時の女子の一体感は恐ろしい。
あたしは、もう終わりだ…。
「ラブラブ〜!」
と、草野が調子に乗って叫ぶ。
「ちげぇよ!コイツはただの幼なじみで!」
悠が必死になって否定すればするほど、皆は面白がって収拾がつかなくなっていく。
その中で、高嶋は悪魔のように笑って言った。
「オイッ!せっかくだからキスでもしろや!」
嬌声が沸き起こり、あたしは久保田に羽交い締めにされる。
「止めっ!ヤダッ!!」
バカバカしいキスコールの中、あたしと同じように悠も男子たちに羽交い締めにされている。
ジタバタと暴れるあたしを、
抵抗する悠を、
取り囲む奴らはみんな悪魔だ。
人間じゃない。
顔を固定され、頭を鷲掴みにされる。
目を見開くと、もう悠の顔がすぐそこにあった。